交通事故のなかでも人に被害が及ぶことで重い責任が問われる人身事故。一般的な刑事罰では罰金が科せられることがありますが、人身事故では罰金なしがありえるのか解説します。また、罰金の相場についても紹介しますので参考にしてください。
人身事故とは?
まずは人身事故とはどういった事故なのか、物損事故とは何が違うのかについて解説します。
けがをしたり死亡したりする被害者がいる交通事故のこと
人身事故とは、交通事故によって人がけがをしたり死亡したりしたケースのことを指します。人に加えて物が壊れた場合も人身事故です。
他人がけがをした場合だけでなく、同乗者がけがをした場合も人身事故として扱われます。
人身事故と物損事故の違い
一方で物損事故とは、交通事故にともない、物に被害が出たものの人間に対して損害を与えていないケースを指します。
たとえば車同士がぶつかったにもかかわらず誰もけがをしなかったり、サイドミラーが接触して壊れただけだったりといった事故が挙げられます。
また、ペットも「物」として扱われるため、ペットがけがをしたり死んでしまったりした場合も物損事故扱いです。
人身事故を起こした際に負う4つの責任
人身事故を起こした場合、加害者が負う責任は4つです。それぞれについて解説します。
1. 懲役、禁錮、罰金が科せられる刑事責任
1つ目は懲役、禁錮、罰金が科せられる「刑事責任」です。
犯罪行為をおこなったと認定された場合に裁判所から命令されて刑罰を受けることを指します。
人身事故の場合、
- 過失運転致死傷罪
- 危険運転致死傷罪
- 過失運転致死傷アルコール等影響発覚免除罪
- 緊急措置義務違反
- 殺人罪
- 傷害罪
に問われる可能性があるでしょう。
2. 被害者に金銭で補填する民事責任
民事責任とは、被害者に対する損害賠償責任のことを指します。
人身事故の場合は人的損害および物的損害に対し、金銭で補填する責任が生まれるのです。
刑事責任と民事責任は別物で、たとえ刑事責任がないと判断されたとしても民事責任が発生することがあります。
また、支払う金額の示談で被害者と加害者の意見が分かれる場合、調停や訴訟、裁判などに発展することもあるでしょう。
3. 免許の取り消しなどの行政責任
行政責任は、免許の取り消しや反則金の支払いを求められる責任のことです。
交通違反や交通事故を起こすと点数が付与され、過去3年間の合計点数が一定の基準に達すると免許が停止されたり、取り消されたりします。
人身事故の場合、死亡事故を起こすと13点または20点、傷害事故であれば2点から13点が付与されるのです。
行政責任についても刑事責任とは独立しており、刑事責任がないと判断されても行政責任が科せられることがあります。
また、行政責任による反則金を支払わない場合は、刑事手続きに移行します。
4. 社会人としての良識が問われる社会的責任
最後が社会的責任です。被害者に対して謝罪する、お見舞いに伺う、示談交渉において誠意ある態度を見せる、きちんと損害賠償金を支払うといったことが挙げられます。
こちらはこれまでに紹介した3つの責任と異なり、法律に基づいたものではありません。
しかしながら、たとえば被害者に対して対応をすべて保険会社に任せ、直接謝罪をおこなわないなどすると、被害者の怒りを買って示談交渉がうまくいかなかったり、刑事裁判で厳罰を求められたりする可能性があります。
法律上の責任がないからといってないがしろにしないようにしてください。
人身事故の罰金が無料のことはある?
人身事故を起こすと、刑事裁判によって決定される罰金を支払う必要があります。この罰金が無料になることはあるのか、どのような場合に支払う必要があるのかについて解説しましょう。
全治3週間以下なら原則不起訴で罰金なし
人身事故を起こしても、罰金なしとなるケースはあります。それは、被害者のけがが21日以下の治療期間で完治した場合です。
ただし、この場合でも民事上の慰謝料は支払う義務が発生することはあります。
重いけがほど罰金が重くなる
人身事故の罰金は、被害者のけがが重くなると高くなります。
オリコンMEの調査によると、全治までの期間が3週間以上3カ月未満の場合は10万円前後から20万円前後、3カ月以上だと30万円前後から40万円前後の罰金が科されるケースが多いとのことです。
飲酒運転や信号無視などは3週間以下でも罰金が発生することも
ただし、交通事故の原因や過失割合によっても罰金は変わります。
飲酒運転や信号無視といったことが原因で人身事故を起こせば全治3週間以下のけがでも罰金が発生することがあるほか、過失割合によっては不起訴になることもあるでしょう。
また、被害者からの意見によっても刑罰の大きさが変わりますので、しっかりと社会的責任を果たすことが求められます。
罰金の支払いについて
人身事故で罰金が科せられた場合の支払いについて解説します。きちんと支払わないと資産を失ったり、強制的な労役が科せられたりする可能性があるので注意しましょう。
判決確定から30日以内に支払い
人身事故で罰金が科せられた場合、判決で罰金が確定してから30日以内に検察庁に納付しなくてはいけません。簡易裁判所に出頭し、窓口で納付しましょう。
なお、この罰金は確定申告の控除対象にはなりません。
一括払いが原則だが分割払いが認められることも
人身事故による罰金は一括払いが原則です。しかしながら、交渉によっては分割払いにできることもあります。
これは法務省の徴収事務規程第16条に定められているもので、一部納付の申し出があった場合は事情を調査し、認められれば一部納付が可能とされています。
また、期限の延長が認められることもありますが、すべてのケースで分割払いや期限の延長が認められるわけではありません。
どうしても支払えない場合は裁判を担当した弁護士に相談するなどして対処方法を早めに検討しましょう。
支払えない場合は強制的な労役に
罰金を期限までに支払わない場合、検察庁から書面や電話で連絡が来ます。それでも支払わなければ、資産を強制的に差し押さえられることになるでしょう。
それでも罰金を支払えない場合は強制的な労役が科せられます。懲役刑を受けた受刑者と同じように刑務所の施設で労働が求められ、罰金が完済できるまで出ることはできません。
1日の留置は多くの場合5,000円相当と換算されるため、たとえば罰金が10万円であれば20日間の労役が必要です。
仕事や日常生活に大きな影響が出ると考えられますので、支払うことができないことがわかっているなら早めに分割払いや期限の延長の交渉をしたほうがよいでしょう。
人身事故を起こしたら責任をしっかり取ろう
人身事故は起こさないのが一番ですが、起こしてしまったらそれをなかったことにすることはできません。
また、罰金についてはけがの程度や事故の状況によっては無料になることもありますが、それによって被害者のけがが治るわけではなく、けが以外にもさまざまな迷惑をかけることになるでしょう。たとえ刑事責任が問われなかったとしても、民事責任、行政責任、社会的責任の点で、誠意ある対応をするようにしてください。
また、万が一の事態に備え、任意保険にきちんと加入しておいたり、事故の被害を小さくするための各種安全装置を導入しておいたりすることも重要です。
事故後に自分自身が再スタートを切るためにも、責任をしっかりと取って区切りをつけることが求められます。