水没車を運転することのリスクには、どのようなものがあるのでしょうか。また、そもそも水没車の定義とは何なのでしょう。本記事では水没車を運転し続けることのリスクはもちろんのこと、知らずに購入してしまわないための見分け方や修理費用について解説します。
そもそも水没車とは?
中古自動車を購入する際、極端に価格が安い車の場合は「水没車」である可能性があります。また多くの方が「水没車」と認識していても、実際には「冠水車」であるケースも考えられるでしょう。
本章ではまず初めに、水没車の定義や冠水車との違いなどを解説します。極力、水没車を避けて中古自動車を購入するため、または自分の車が水没車となってしまった場合への対処のために「水没車」がどんな車なのか把握しておきましょう。
水没車の定義とは
前提として水没車とは、事故や水害などで車体が浸水した経験のある車のこと。しかしただ「浸水した」といっても、その程度によっては水没車ではなく冠水車となってしまう可能性があります。
一般的に水没車と呼ばれる車は、この浸水具合がタイヤの半分より下までの車です。タイヤより下までの浸水であれば、車自体に大きな影響を及ぼすことがないため、そのまま乗り続けることも、中古車として通常の査定価格に近い金額で売却することもできます。
ただし浸水した水が海水などで、塩分濃度が高い場合は、浸水度合いが軽度でも錆などが発生する可能性があります。海水に浸かった車をそのまま走行させる場合は、一度真水で洗い流しましょう。浸水によって一部修理が必要な場合でも、浸水した水が海水であることをしっかりと伝えることでより適切な修理・パーツ交換ができます。
浸水の具合では冠水車となる
先ほど解説したように、タイヤの上まで水に浸かってしまった場合など、車の浸水度合いによっては「冠水車」となります。また同じく冠水車であっても、その度合いによって「減点率」が異なります。減点率とは、一般社団法人日本自動車査定協会によって定められた「中古車査定基準」の加減点基準の減点される割合のことです。割合が大きければ大きいほど、やはり査定額は下がってしまいます。冠水度合いとその減点率については、以下を参考にしてください。
冠水度合い | 減点率 |
フロアまで | 50% |
クッション上部まで | 70% |
上記の表からもわかるように、フロアまで浸水しているか、クッション上部以上まで水に浸かってしまっているのかによって減点率が左右されます。
浸水の程度によっては、冠水車であっても中古車市場に流通していることがあるため、購入する方は気をつけましょう。逆に自分の車が冠水車となってしまっても、諦めずに一度専門業者へ尋ねてみてください。
水没車を運転・購入することのリスク
水没車であっても、一時的には通常通り走行できる可能性があります。また中古車として販売されている水没車は、他の車よりも低価格で販売されているため、一見お得なように感じてしまいます。
しかし水没車をそのまま運転・購入することには大きなリスクがあります。ここでは水没車のリスクとして考えられる可能性、「電気系統への悪影響」「車内の異臭」「エンジンが故障する」の3つについて解説します。
電装系に悪影響が及ぶリスク
たとえ一時的に走行できる水没車であっても、知らないうちに電気系統(電装系)に悪影響が及んでいる可能性があります。電気制御が多数ある車であればあるほど、浸水後に少しずつ悪影響を及ぼす確率が上がります。
浸水直後は問題なくエンジンがかかったとしても、走行しているうちに電装系のハーネスやケーブルといったパーツに支障をきたす場合もあるでしょう。走行するうちにそれらのパーツが故障してしまうリスクを含んでいるため、浸水車は可能な限り修理しておきましょう。
車内に悪臭が出るリスク
後々、電装系などが故障してしまうリスクだけでなく、クッション部分などが浸水してしまった冠水車であれば、車内の「悪臭」も大きなリスクの一つです。一見すると「え、臭いだけならそこまで問題じゃないのでは?」と思ってしまうかもしれません。
しかし車内に広がる悪臭の原因は、カビや細菌です。それらから出る悪臭は、ただ臭いだけでなく衛生面でも大きな問題があります。
中古車の購入を検討している場合、数分の試乗では臭いまでは気がつかない可能性もあります。できるだけ長時間、試乗することで悪臭がないかどうかもチェックできるでしょう。
エンジンが故障するリスク
水没車を運転・購入することの最大のリスクは「エンジントラブルが生じること」です。エンジンは、故障してしまうと他のパーツよりも修理に高額な費用がかかります。エンジンの故障に対する修理費は数十万円にも及ぶことも珍しくありません。
せっかく低価格で中古車を購入しても、エンジンの修理が必要となったことで、結局は他の中古車を購入したほうが安かったという可能性もあるため十分に注意しましょう。車両価格だけで購入する車を決めるのではなく、後々のリスクもしっかりと考慮して検討するようにしてください。
水没車の見分け方
水没車を運転・購入することのリスクについては、おわかりいただけたでしょう。しかしリスクについて理解していても「知らずに水没車を購入してしまう」という可能性は十分にあります。
ここではうっかり水没車を購入してしまわないように、中古車を見極めるポイントを「シミ・汚れがある」「異臭がする」「エアコンから異臭がする」「不自然な部分が錆びている」の4点に分けて解説します。
シミ・汚れがある
まず目視ですぐに確認できるポイントとしては、シミ・汚れの有無です。過去に水没している車の場合、浸水の跡が「シミ」や「汚れ」といった形で残っている可能性があります。中古車であれば、いずれの車であっても走行年数に応じた、多少のシミや汚れはあるものです。
しかし水没車の場合は、その汚れが「泥」によるものであるケースが多く、通常の汚れとは異なります。
また接着剤の汚れがある、ドアの内張りを剥がした痕があるといったポイントも見逃さないようにしましょう。
異臭がする
水没している車は、いくら丁寧にクリーニングをしていたとしても、臭いをなかなか落とすことができません。多少の臭いであればクリーニングで除去できますが、水没車の場合はその程度では臭いが落とせないケースも珍しくありません。
車内の「臭い」が気になる場合は「大丈夫だろう」と安易に考えず、しっかりと検討する必要があるでしょう。
また先ほど説明したような「シミ」や「汚れ」なども、クリーニングでは落とせないケースも多く、異臭と合わせてチェックしてください。
エアコンから異臭がする
車内全体の異臭も気をつけるべきポイントですが、エアコンをつけたときの異臭も「水没車」を見極めるポイントです。
中古車を購入する際、試運転ができる場合は必ずエアコンのスイッチも入れて、臭いが残っていないかチェックしましょう。水没車におけるエアコンの異臭は、どんなにフィルターを交換したとしても、臭いを完全に除去することは難しいです。
車内とエアコンの臭い、どちらもしっかりとチェックした上で中古車を購入しましょう。
不自然な部分が錆びている
目視で確認できるポイントとしては「錆」にも注目してください。車を走行させていれば、水没でなくても車体が濡れてしまうことはあります。しかし、通常の走行時に水がかからない部分にも「錆」が生じている場合は、水没車を疑ってください。
たとえばエンジンルーム内のシリンダブロックやアルミ製部品に、錆が生じている場合は要注意です。またトランクルーム・シートレールなどに錆がある場合も、注意してください。
水没車の修理
水没車であっても、浸水具合によっては修理をしてそのまま走行できるケースもあります。しかし浸水度合いが深刻な場合は、修理費用が高額になってしまい、廃車にして車を買い替えてしまったほうが良いケースもあります。本章では水没車の修理費用や保険の適応などについて解説します。浸水度合いを考慮して、修理をするか否か判断してください。
修理費用について
水没車を修理するために必要な費用は、一体どのくらいなのでしょうか。もちろん車種や被害状況によって、修理費用は大きく異なるため、一概に「◯円未満」と断言することはできません。ここでは大まかな被害状況とともに修理費用を解説しますが、あくまで「目安」としてください。
まずマフラーまでが浸水してしまった場合の修理費用は、50万円〜となっています。そしてタイヤの半分より下など、軽度の浸水具合である場合は5万円〜修理可能です。
保険金について
水没車の場合、修理費用と合わせて気になるポイントが修理をする際の「保険金の負担額」などでしょう。
まず水没してしまった車が、車両保険に入っていない場合は「全額自己負担」となります。また保険には加入しているものの、水没に対する補償は契約に含まれていない場合でも「全額自己負担」となります。
水没も補償に含まれた保険に加入している場合は、修理費用を負担してもらえる場合もあります。水没車は修理費用が高額になりやすいため「全損扱い」となる可能性が高いです。ちなみに全損となった場合、車両保険の補償上限額が支払われます。
車が水没・冠水した場合にやること
ここまでで水没車がどんな車なのか、運転・購入することのリスク、購入時の見分け方、修理に関する内容を解説しました。では実際に自分の車が水没してしまった場合、どのように対処をすれば良いのでしょうか。水の事故などに遭った場合、パニックになって冷静な対応ができないこともあるでしょう。ここでは万が一のときの対処法を解説していきます。
まずはレッカー車を呼ぶ
車が水没してしまった場合は、まず「レッカー車」を呼びましょう。水没した車を自分でどうにかしようと考えるのは、非常に危険なので絶対にやめましょう。
万が一のときにパニックになってしまわないよう、日頃からロードサービスの連絡先を確認しておくと良いでしょう。
ちなみにロードサービスにかかる費用は、一般社団法人日本自動車連盟(JAF)に救援要請をした場合で13,130円(税込/非会員)ほど。1kmごとに730円のけん引料が別途発生します。
整備工場またはディーラーへ持ち込む
レッカー車を手配したあとは、速やかに近くの整備工場やディーラーへ連絡しましょう。業者の担当者に車の損傷具合を見てもらい、どんな修理ができるのか、またそもそも修理自体が可能な範囲の損傷なのかをチェックしてもらいましょう。
ちなみにディーラーに持ち込んで、修理を依頼する場合は整備工場よりも費用が高くなる傾向にあります。
修理すべきか検討する
整備工場やディーラーで車の状態を見てもらったあとは、そのまま修理を依頼するのか廃車にしてしまうのかを検討します。エンジンや電気系統に悪影響が及んでいる場合は、修理費用が高額になる可能性があります。
場合によっては車を買い替えてしまったほうが、結果的には安くおさまる可能性もあります。水没車を修理して運転する場合には、以下のようなデメリットが考えられるため、それらも合わせて検討してください。
- 修理費用が高額
- 修理が自己負担になる可能性が高い
- 「冠水歴」がつく
- また故障するリスクがある
水没車のリスクを考慮して運転するか検討しよう
水没車は修理をしてそのまま走行することも可能です。しかし水没車を運転・購入することには「電装系に悪影響が及ぶ」「車内に悪臭が出る」「エンジンが故障する」といったリスクがあります。また修理費自体もかなり高額になるため、場合によっては廃車にしてしまったほうが良い可能性もあるでしょう。
リスクを考慮して水没車を廃車にする場合は、ぜひ「廃車引き取り110番」を検討してください。