通勤途中などでいくら急いでいても、歩行者の横断に気付かなかったり遮ったりすると歩行者妨害として交通ルール違反になってしまいます。ルール違反しないようにするには、まずルールをしっかり把握することが大切です。
この記事では、歩行者妨害の概要から防止のための運転のポイントを解説します。
歩行者妨害の定義と現状
普段よく自動車を運転している人ほど、歩行者のさまざまな振る舞いに疑問を感じることが多いでしょう。しかし一般道路は公共の、誰もが利用できる施設です。多少のことは許容し、現実として踏まえつつ事故にならないよう適切に配慮しなくてはなりません。
最近特に、自動車の歩行者妨害に関する話題が取りざたされるようになりました。ここではより理解を深めるため、事故に関する統計から現状について解説します。
歩行者妨害防止は増え続ける事故の防止のため
道路わきに歩行者が立っていても、そのすぐ横をそのままのスピードで通り過ぎる自動車を見かけることがあります。歩行者がかなり車道に近い位置に立っている、よそ見をしている、自動車のスピードが速いといった状況は、はたから見ていて特にヒヤリとする瞬間です。
ドライバーからすれば「そんな近くに立つ方が悪い」と思うかもしれませんが、歩行者にとっては「早く渡りたいのにどの車も止まってくれない」と焦っているだけかもしれません。そんな思惑のすれ違いが事故につながります。実際、歩行者の横断中の事故は増え続けており、効果的な対策は急務とされているのが現状です。
歩行者妨害検挙件数の推移
警察庁の発表によると、2017年から2021年までの5年間に起きた歩行者と自動車の衝突による死亡事故は5,052件発生しており、うち約7割にあたる3,588件は歩行者の横断中に発生しています。そのうち2,406件が横断歩道以外を横断中の事故であり、さらにうち約7割は走行中の自動車の直前または直後の横断など法令違反による事故でした。
この傾向は危険な歩行者妨害行為の検挙件数にも表れています。
横断歩行者等妨害等の件数 | 交通違反の取締全体の件数 | |
2017年 | 145,292 | 6,482,542 |
2018年 | 181,290 | 5,985,802 |
2019年 | 229,395 | 5,711,488 |
2020年 | 290,532 | 5,751,798 |
2021年 | 325,796 | 5,546,115 |
参考:横断歩道は歩行者優先です
交通違反全体の検挙数は下がっているにもかかわらず、歩行者妨害の検挙数は2倍以上にのぼっていることから、警察が重点的に取り締まっていることが推測できます。
対処するための警察の取り組み
交通事故は発生すれば加害者、被害者ともに大きな損失を被りかねません。そう考えればどちらがルール違反したかということより、そもそも発生させないことが理想といえるでしょう。
そのために警察は、ドライバーに対して横断歩道手前での減速義務や停止義務の順守を、歩行者に対して自動車等の直前・直後の横断や斜め横断などの法令違反行為をしないよう啓発活動に取り組んでいます。
しかしドライバーには免許更新時の講習受講という機会がありますが、歩行者にはそんな機会はほぼありません。また事故で被る被害の重大さを考えれば、やはり歩行者よりドライバーが事故を防ぐ大きな役割を担っているといえるでしょう。
警察が定める運転者と歩行者のルール
ここで歩行者と自動車のそれぞれに定められたルールを見てみましょう。事故を防ぐには双方がルールを正しく理解し、きちんと守ることが重要です。ルールには何を守るべきか、何をしてはならないかが細かにわかりやすく定められています。
すべての歩行者とドライバーが順守すれば、事故は未然に防げるはずです。ここでは運転者と歩行者それぞれに定められたルールと、歩行者に譲られたという特殊な場合の判例について解説します。
運転者が守るべきは歩行者優先の原則
ドライバーは自動車が横断歩道や自転車横断帯に近づいたとき、横断する歩行者または自転車が明らかにいない場合を除き、その手前で安全に停止できる速度まで減速しなくてはなりません。これが歩行者および自転車の横断を優先する原則です。
すべてのドライバーがこの原則を守れば多くの事故を防ぐことができるでしょう。しかし慣れた道路ほど、また道を急ぐほど「うっかり」減速せずに通行しがちです。ドライバーはまさにそんなときほど注意し、普段から時間に余裕を持ち視野を広くとらえて運転することが求められます。
横断歩道がなくても歩行者が優先される状況
歩行者との事故の、横断歩道以外での発生割合が高いということは、ドライバーは横断歩道だけでなく歩行者に対して常に注意しなくてはならないということです。「歩行者は横断歩道を渡るもの」という先入観にとらわれず、あらゆる事態に備えることが求められます。
歩行者は原則として近くの横断歩道や信号機のある交差点を横断しなくてはなりません。横断歩道橋や横断用地下道も同様です。しかしこのルールを守る歩行者ばかりではありません。事故を防ぐには歩行者のルール違反の可能性にも備える必要があるでしょう。
歩行者は横断禁止を守るのがルール
歩行者も自動車との衝突を避けるためには横断歩道の利用や信号を含むルールを守ることが求められます。
中でも重要なのは、「歩行者横断禁止」標識のある道路の横断をしてはならないというルールです。他にも道路の斜めの横断や、ガードレールのあるところでの横断も極めて危険です。また自転車との接触を避けるため、自転車横断帯には入らないようにしましょう。
違反が取り消された「譲られた」ケース
歩行者の横断を妨害してはならないと定められていても、中には自動車に先に行くよう促す歩行者もいます。
あるケースでは、明らかに歩行者に譲られていたにもかかわらず歩行者妨害違反として検挙されましたが、後に違反が取り消されています。ポイントは、歩行者が手で先に行くよう明らかに促していることと、それを示すドライブレコーダーの映像があったことです。
管轄する警視庁は、譲られた場合は検挙しないよう指導していたとコメントしていますが、それが弁護士を通じた撤回の求めに応じた形でやっと違反の不成立を認めたことになります。
しかしだからといってすべての譲られたケースが撤回されるとは限りません。明らかに譲られたとはいえない、またはそれを証明する手段がない場合は難しいでしょう。
歩行者妨害違反の違反点数と罰金・罰則
歩行者妨害違反による罰則等は、道路交通法に次のように定められています。
横断歩道等における歩行者等の優先
- 罰則:3月以下の懲役または5万円以下の罰金
- 反則金:大型車1万2千円、普通車9千円、二輪車7千円、原付車6千円
- 基礎点数:2点
横断歩道のない交差点における歩行者の優先
- 罰則:3月以下の懲役または5万円以下の罰金
- 反則金:大型車1万2千円、普通車9千円、二輪車7千円、原付車6千円
- 基礎点数:2点
金額については人によって印象は異なるでしょう。しかし違反行為によって歩行者の生命が失われることを思えば、罰としては軽いと考えることもできます。誰にとっても事故は起こさないに越したことはありません。
反則金の金額や点数ではなく、事故によって変わってしまう被害者の人生の重みから、違反の重大さを違反しないためのモチベーションにしましょう。
参考:横断歩道は歩行者優先です
歩行者妨害をしないためのポイント
ここからは、歩行者妨害をしないためにどのように振る舞うとよいかを考えてみましょう。ドライバーは自動車という大きな力をうまくコントロールしなくてはなりません。そのためには、少なくとも次の3つについて常に強く意識することが求められるでしょう。
横断歩道や歩行者をいち早く認識する
最も重要なのは歩行者や横断歩道をいち早く認識し、適切に速度を落とすことです。そうすれば歩行者がふいに車道に飛び出しても緊急停止でき、事故を未然に防ぐことができます。
そのためには普段から適切な速度での通行を心がける必要もあるでしょう。無理に急がないで済むよう時間に余裕をもって出発する、常に制限速度を意識し超過しない運転に努めるといった心掛けが大切です。
停止車両の側方を通過するとき一時停止する
道路にはトラックやタクシーなどやむを得ず道路わきに自動車が停止している場合があります。通常はその側方を通過しますが、その際自動車の陰から歩行者が飛び出す可能性を考え、一時停止し徐行で通過するようにしましょう。
信号機のある横断歩道等で、歩行者の横断が禁止されている状況では法令的に除外されますが、事故を起こさないことを目指すなら、やはり細心の注意を払って通行するのが理想です。
横断歩道の手前では追い抜きをしない
横断歩道は歩行者が横断してよいとされる場所です。自動車で通行する際は歩行者に細心の注意を払う必要があるため、その手前30メートル以内では「前方を進行している車両等(軽車両を除く)の速報を通過してその前方に出てはならない」とされ、いわゆる追い抜きが禁止されています。
追い抜きは通常、追い抜かれる自動車のスピードや位置に注意しながら、さらに速度を上げる走行です。さらに横断歩道の周辺、歩行者の位置や行動の予測を同時にしなくてはなりません。事故を避けるには無理をせず、速度を落としてでも安全に通行することを優先しましょう。
「まさか」に備える配慮が事故防止のカギ
歩行者妨害の検挙数は、交通違反の全検挙数が減っているにもかかわらず増え続けています。これは歩行者妨害による事故を防ぐための警察の取り組みの強化、つまり歩行者妨害の防止が事故の防止につながるためです。
事故を未然に防ぐには、加害者となってしまう自動車のドライバーの、万が一に備えた上手な運転や配慮が欠かせません。普段から制限速度の順守や歩行者のいち早い認知に努め、常に安全安心な交通環境に貢献したいものです。