家族や親戚が亡くなった場合、その人が保有していた自動車はどう扱えば良いのでしょう。そこで本記事では、所有者が死亡してしまった自動車について、その名義変更手続きの方法や流れなどを解説します。身近な人が死亡してしまった際、自動車をどう処分するのか悩んでいる方は、ぜひ参考にしてください。
自動車の所有者死亡後に、まずやること3つ
所有者が死亡してしまった場合、土地や住宅などの不動産であればすぐに名義変更をしなければと考える方も多いでしょう。これは自動車であっても同様です。不動産などと同じく、自動車も所有者が死亡してしまった場合は速やかに名義を変更しなければなりません。
しかし名義変更の手続きをおこなう前に、いくつか決めておかなければならないことがあります。そこで本章では、名義変更手続きの前にやっておくべきことを解説します。
相続人を決める
自動車の所有者が死亡してしまった場合、初めに、その車の所有者を確認しなければなりません。「所有者が死亡したのに、所有者を確認するというのはどういうこと?」と思われるかもしれませんが、実は、普段から車を使っている人=所有者とは限らないケースもあります。
故人が購入し、使用していた自動車であっても、実は名義は会社のものであるケースがたびたび見られます。またローンを組んで自動車を購入している場合、ローンを完済するまでは、その車の所有権は信販会社がもっています。
そのため、亡くなった方がそのまま所有者なのかを一度確認しておきましょう。自動車の車検証を見ることで、正確な所有者を把握できます。
次に自動車を誰が相続するかを決めます。自動車は住宅などと同じように「故人の財産」として扱われます。そのため所有者が死亡した場合は、当然誰かが相続することになります。相続する場合もまた土地と同じように、誰か一人が相続する「単独相続」の場合と、複数人が相続する「共有財産」となるケースがあります。どちらの方法で相続するのか、誰が相続するのかを明確にしておきましょう。
単独相続の場合にやること
誰か一人が自動車を相続する場合は「単独相続」に該当します。自動車を単独相続する場合は、以下の書類を用意して手続きしてください。
- 自動車の車検証
- 所有者の死亡が確認できる戸籍謄本(※)
- 相続人の戸籍謄本または、戸籍の全部事項証明書
- 譲渡証明書
- 遺産分割協議書
- 車庫証明書
- 新しい所有者の実印と印鑑証明書(3ヶ月以内のもの)
- ナンバープレート
(※)除籍謄本でも可能です。またどちらの場合でも発行から3ヶ月以内のものを用意してください
またディーラーや親族など、相続人以外の方に手続きを代行してもらう場合には、上記の書類と合わせて本人の実印が押された「委任状」も必要です。さらに相続人が未成年の場合は、親権者または後見人といった「法定代理人」が同意する、もしくは代理手続きをおこなってください。
複数相続の場合にやること
自動車は土地などとは異なり、分割することができないため、共同相続として相続する可能性があります。複数人が一つの自動車を相続する場合は「共同相続」に該当します。これは遺産を分割することなく、複数の相続人に所有権があるといった状態です。
普通自動車(査定金額100万円以上)を共同相続する場合は、以下のような書類を用意してください。
- 自動車の車検証
- 所有者の死亡が確認できる戸籍謄本(※)
- 相続人の戸籍謄本または、戸籍の全部事項証明書
- 遺産分割協議書
- 車庫証明書
- 新しい所有者の実印と印鑑証明書(3ヶ月以内のもの)
- ナンバープレート
(※)除籍謄本でも可能です。またどちらの場合でも発行から3ヶ月以内のものを用意してください
基本的には単独相続の場合と同じものですが「譲渡証明書」は不要です。
しばらく共同財産としていても問題ありませんが、各種手続きが複雑になる場合が多いため、基本的にはのちに単独相続へ変更するのが一般的です。「共有相続」から「単独相続」へと名義を変更する場合は、遺産分割協議をおこない、新所有者を決定します。
ケース別:自動車の所有者死亡後の名義変更
自動車の所有者が亡くなってしまい、名義変更の手続きをおこなう際は、まずは車検証で正確な所有者を確認しようと解説しました。そして所有者を明確にしたうえで、相続人を決定した場合、次はいよいよ名義変更の手続きをおこないます。
名義変更をおこなうタイミングとしては、相続後に手続きをおこなう場合と一旦、所有権解除をした後に名義を変更するケースがあります。それぞれのケースで手続きをおこなう場合について本章で解説するため、参考にしてください。
ケース1:相続後に手続きをおこなう
自動車の所有者が故人と確認できた場合は、相続の対象です。しかし自動車の名義変更は、法律によって義務として定められているものではなく、それと同時に「死亡からいつまでに名義変更しなさい」といった決まりもありません。
しかし「道路運送車両法」にはこの期間について明記されており、所有者が変更となる場合には、変更後15日以内に手続きをしなければならないとされています。
また法律で決められていないといっても、自動車の名義変更をしないまま放置してしまうと、売却や保険の一時抹消登録といった各種手続きをおこなえません。
ケース2:所有権解除後に手続きをおこなう
ローンを組んで自動車を購入した場合、完済するまでは所有者がクレジット会社やディーラーとなっている場合もあります。この場合は所有権が「留保されている」状態であるため、まずはローンを完済して車の所有権を解除しなければなりません。
そして解除したのちに、新しい所有者へと名義を変更します。このときにおこなう手続きは、あくまでも名義変更のための手続きであるため、相続の手続きではありません。相続に関する手続きは別途おこなってください。
自動車の名義変更をする方法
自動車の名義変更をおこなう方法としては3つのパターンがあります。1つ目が自ら運輸支局へ出向き、自分で手続きをする方法です。2つ目は司法書士へ依頼して手続きを代行してもらう方法です。3つ目は同じく手続きを代行してもらう方法ですが、司法書士ではなくディーラーや買取業者へ依頼するというものです。
いずれの方法にもメリットとデメリットがあります。本章では名義変更をおこなう3つの方法について解説します。
自分で手続きをする
自身で自動車の名義変更をおこなう場合は、まず必要書類を揃えてください。対象となる自動車が普通自動車であれば「運輸支局」で、軽自動車の場合は「軽自動車検査協会」で、名義変更の手続きをおこないます。
いずれの場合でも、受付時間は平日の8時45分〜16時です。また全ての手続きが完了するまでに必要な時間は半日程度と考えておきましょう。
自分で手続きをおこなうメリットとしては、何といっても代行費用がかからないことにあります。その反面、自分で時間を作って運輸支局(もしくは軽自動車検査協会)へ行かなければならず、また平日にしかおこなえないといった制限もあり、万が一書類に不備があった場合は別日に出直さなければならない可能性もあります。
平日、半日もの時間をとるのは厳しいという方は、司法書士やディーラーなどに代行してもらうのがおすすめです。
司法書士に依頼する
司法書士に依頼して自動車の名義変更をおこなう場合、各種必要書類を集める作業から代行してもらえます。もちろん書類の作成も代行してもらえるため、かなりの手間を省けます。司法書士の利用代金は1万〜3万円程度が相場となっています。
また自動車の名義変更だけではなく、土地や戸籍謄本の取り寄せといったさまざまな手続きをまとめて依頼することで、お得になることもあります。
司法書士へ手続きを代行してもらうことのメリットとしては、何よりも手間がかからないことでしょう。また相続にまつわるいくつかの手続きをまとめて依頼できる点も便利です。
デメリットとしては、やはり代行費用が高額になることです。また事務所によっては自動車の名義変更のみの依頼は請け負っていない場合もあるため、注意してください。
ディーラー・買取業者へ代行してもらう
ディーラーや買取業者にて、自動車の名義変更を代行してもらう場合は、運輸支局(または軽自動車検査協会)でおこなう最後の手続きのみが依頼できます。司法書士へ依頼する場合とは異なり、必要書類は自分で準備しなければなりません。
どうしても平日に時間を作ることができない、また自動車の名義変更以外に依頼することがないという場合は利用してみてください。ディーラーや買取業者へ依頼をして、自動車の名義変更を代行してもらうためには、1万〜3万円の費用がかかり、これこそがこの方法のデメリットといえます。
しかし必要書類さえ用意できれば、手続きに行く時間や手間が省けることがメリットといえます。
名義変更の手続きの流れ
ここからは、改めて名義変更をおこなう流れを順番に解説していきます。所有者が死亡してから、名義変更が完了するまでの流れとしては、前述したように、まず正確な所有者を確認します。次に、新たな所有者を決定し、運輸支局または軽自動車検査協会で手続きをするといった流れで進みます。
それぞれの工程で注意すべきことや、細かな方法を解説するため、順を追って確認してください。
まずは正確な所有者を確認する
自動車は所有者が誰なのかによって、その後の手続きが変わります。そのため所有者と思われる方が亡くなったあとは、まず本当にその故人が所有者であったのか、実は会社などが所有している車である可能性はないのか確認してください。
確認方法は前述したように、車検証(自動車検査証)の「所有者の氏名又は名称」の欄をチェックするだけのため、比較的簡単に確認できるでしょう。自動車の所有者として考えられるのは、以下の3パターンです。
- 故人
- 信販会社
- ディーラー
新たな所有者を決める
正式な所有者を確認したあとは、新たな所有者を決めます。故人の遺言などが残されていない場合は、一時的に対象の自動車は相続人全員の共有財産として扱われます。
一般的には、その後遺族で話し合い(遺産分割協議)がおこなわれ、相続人を一人に決定します。そして相続人となった人は、名義変更の手続きへと進んでいきます。
運輸支局で手続きをする
相続人が決定したあとは、運輸支局にて名義変更の手続きをおこないます。次章で紹介する必要書類を用意したのち、窓口で手続きをおこなってください。
このとき注意したいのが「車検切れ」です。車検の切れている自動車は、手続きができないため、車検期限が切れていないか確認しましょう。
また運輸支局は平日しか窓口が開いていません。平日は時間がないという方は、前述したように司法書士やディーラー、買取業者へ依頼し、手続きを代行してもらってください。
名義変更に必要な書類
名義変更に必要な書類は、どのようなケースにも共通して必要なものもありますが、ケースによって異なる場合もあります。本章で解説するのは「相続人による手続き」「100万円以下の自動車の手続き」「複数相続の場合」といった3パターンに分けて、用意すべき書類を紹介します。自分のケースがどのパターンに該当するのか確認したうえで、書類を用意してください。
相続人による手続きに必要な書類
相続が一人であり、なおかつその本人が名義変更をする場合は、以下の書類を用意してください。
- 車検証
- 被相続人の誕生〜死亡までの戸籍謄本
- 手数料納付書
- 申請書
なお手数料納付書は、500円の検査登録印紙を貼り付けた状態のものを用意してください。
100万円以下の自動車に必要な書類
基本的に普通自動車の名義変更をおこなう場合は、既出のとおり以下の書類が必要です。
- 車検証
- 被相続人の誕生〜死亡までの戸籍謄本
- 手数料納付書
- 申請書
対象となる自動車の時価が、100万円以下である場合は「遺産分割協議書」の代わりに「遺産分割協議成立申立書」という簡易的な書類でも同様の手続きが可能です。
また100万円以下であることが確認できる査定書(または査定証)や査定価格に関連した資料の写しなども必要です。
複数相続の場合に必要な書類
相続人が複数いる場合(自動車を共有財産とする場合)でも、全員で手続きをする必要はありません。このようなケースでは、代表相続人がまとめて書類を用意することで名義変更が可能です。しかしこの場合は、前述したような「共通して使用する書類」に加えて、以下の書類も用意しなければなりません。
- 相続人全員の実印が押された遺産分割協議書(※1)
- 新所有者の印鑑証明書(発行から3ヶ月以内のもの)
- 遺言書が存在する場合は遺言書(※2)
- 新所有者の実印
※1遺産分割協議書を作成している場合
※2自筆証書遺言など、検認が必要な遺言書の場合は、家庭裁判所によって検認されたものに限る
名義変更をしないとどんなリスクがある?
前述したように、自動車の名義変更は法律によって定められているものではありません。しかし、名義変更をおこなわずに放置してしまうと、いくつかのリスクがあります。名義変更をしないことによるリスクは「売却ができない」「廃車手続きができない」といった2つがあります。
つまり名義を変更しないことには、自動車が不要になった場合でも、処分することができないのです。
自動車の相続税について
自動車を相続した場合も、不動産と同じように「相続税」が発生します。それは自動車が法律上で「相続財産」と認識されるためです。
本章では、自動車を相続する場合に発生する相続税や自動車税、また車の時価を算出する方法などを解説します。自動車を相続する際、どのくらいの税金を支払わなければならないのか、こちらでチェックしてください。
自動車は不動産と同じく「相続財産」
繰り返しになりますが自動車は、預貯金や不動産と同じく「相続財産」として扱われます。しかし自動車以外の相続財産の合計が、基礎控除額以内であれば課税対象とはなりません。基礎控除額は「3000万円+(600万円×法定相続人の数)」であるため、この金額以下であれば課税されないということです。また自動車のローンが残っている場合は「債務控除」の対象です。
なお自動車税の場合は、相続後は新しい所有者が納めます。通常どおり、自動車税は4月1日時点の所有者に対して課税されます。
算出方法
前述したように、自動車の時価が100万円以下であれば「遺産分割協議書」ではなく「遺産分割協議成立申立書」という書類でも手続きができます。そのためには、自動車の時価を調べておかなければなりません。
自動車の査定または相続税評価の算出する際、車は「一般動産」として評価します。そして一般動産は原則、精通者の意見価格や売買実例価格を参考にします。中古車販売業者の買取価格または査定額をベースに考えるとわかりやすいでしょう。
所有者が死亡した自動車は名義変更をしよう
自動車の所有者が死亡してしまった場合は、速やかに名義変更をおこなうのがおすすめです。名義変更をしなければ、自動車が不要になっても処分することができません。名義変更の手続きは、自分でおこなうことも、司法書士やディーラー、買取業者へ代行依頼をすることもできます。自分のスケジュールを踏まえて、どのように手続きを進めていくのか検討してください。