車検有効期間は延長されないのが原則です。とはいえ長ければ数年に一度の手続きであるためうっかり忘れてしまうことがあるかもしれません。
この記事では、車検有効期間が切れたときの対処法と、対処法の1つである仮ナンバー発行の概要、過去に延長された事例について解説します。
車検有効期間は延長できるのか?
うっかり車検時期を忘れ、すでに期限は直前なのにもかかわらず自動車を預けに行く時間がないとなれば「車検の有効期間は延長できないか?」と考えてしまうのも無理はありません。ここでは、車検の有効期間について、車検のしくみの面から考えてみます。
車検有効期間は原則として延長できない
原則として、車検の有効期間を延長することはできません。これは道路運送車両法の第六十一条の二で明確に定められています。
(自動車検査証の有効期間)
第六十一条 自動車検査証の有効期間は、旅客を運送する自動車運送事業の用に供する自動車、貨物の運送の用に供する自動車及び国土交通省令で定める自家用自動車であつて、検査対象軽自動車以外のものにあつては一年、その他の自動車にあつては二年とする。
続く条項では、有効期間の伸長(延長措置)について次のように明記されています。
第六十一条の二 国土交通大臣は、一定の地域に使用の本拠の位置を有する自動車の使用者が、天災その他やむを得ない事由により、継続検査を受けることができないと認めるときは、当該地域に使用の本拠の位置を有する自動車の自動車検査証の有効期間を、期間を定めて伸長する旨を公示することができる。
引用元: e-Gov法令検索 道路運送車両法
上記の条項には、車検の有効期間は、やむを得ない事由によっては国土交通大臣が期間を定めて伸長できると記載されています。やはり個人が延長を申し出ることはできません。
用途車種によって車検有効期間は異なる
車検有効期間は、車検の種類や車種によって異なります。車検の種類は次の2つです。
- 新規検査:検査を受けることで車検証が発行され、ナンバープレートが交付されるという、新車登録の手続きとしての車検
- 継続検査:新規検査の期限以降の車検
さらにいうと、車検有効期間は車種ごとにも異なります。
新規検査 | 継続検査 | |
普通・小型乗用車 | 3年 | 2年 |
軽乗用車 | 3年 | 2年 |
小型特殊自動車(キャンピング車) | 2年 | 2年 |
マイクロバス(定員11名以上) | 1年 | 1年 |
トラック(車両総重量8t以上) | 1年 | 1年 |
トラック(車両総重量8t未満) | 2年 | 1年 |
軽トラック | 2年 | 2年 |
250ccを超えるオートバイ | 3年 | 2年 |
※250cc以下のオートバイは、車検の対象ではありません。
一般的に知られているのが、新規検査3年、継続検査2年という有効期間ですが、これは乗用車や250ccを超えるオートバイに限ったものです。小型特殊自動車など乗用車以外の自動車は新規検査が長くても2年、継続検査は1年と短く、車検を受ける頻度が上がります。
そのため車検有効期間は、乗用車以外の自動車について特に注意することが大切です。仕事で利用する自動車であれば、なおさら車検は適切に余裕をもって受けるようにしましょう。
車検は余裕をもって受けるのがオススメ
車検有効期間が車種ごとに明確に定められていれば、所有する自動車の車検がいつかは事前に把握できます。継続車検は、実は期限より半年前、1年前でも受けられる制度です。前倒ししすぎると別のデメリットもあるため注意しなくてはなりませんが、期限を過ぎてしまうことが不安なら、ある程度余裕をもって先に受けておくことをオススメします。
別の方法として、あらかじめディーラーや業者に連絡して予約を取っておくのもオススメです。「2日前に電話してほしい」などお願いしておけば、忘れることなく有効期限内に車検を受けられるでしょう。
前倒し車検にはデメリットもある
継続車検は有効期間よりずっと前に前倒して受けられますが、前倒すとその日から有効期間が設定されてしまうのがデメリットといえます。たとえば期限の4か月前に車検を受けると、次の有効期限も4か月繰り上げられてしまい、4か月分が無効となってしまいます。にもかかわらず、車検の費用はほぼ変わりません。
やはり車検は有効期間ギリギリの方が経済的です。とはいえ期限が切れて公道を運転できなくなるのは困ります。車検は忘れてしまわないよう前もって、しかし経済的な有効期間ギリギリの間に受けるのがオススメです。
車検有効期間を過ぎたらどうなる?
日本では車検を受けるのは、自動車を所有する者の義務です。車検有効期間が過ぎてしまうと、義務に違反することになり、何かしらの罰則や不便さが発生してしまいます。
ここでは、車検有効期間を過ぎたらどうなるかについて、具体的にみてみましょう。
車検なしで公道を走った場合
車検有効期間を過ぎても、自動車が駐車場やガレージに止めてあるだけなら何の問題もありません。問題となるのは、道路運送車両法の第五十八条に定められているとおり、車検なしで公道を走った場合です。
第五十八条 自動車(国土交通省令で定める軽自動車(以下「検査対象外軽自動車」という。)及び小型特殊自動車を除く。以下この章において同じ。)は、この章に定めるところにより、国土交通大臣の行う検査を受け、有効な自動車検査証の交付を受けているものでなければ、これを運行の用に供してはならない。
引用元: e-Gov法令検索 道路運送車両法
もしこれに違反すると、同法第百八条の一に定められた6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられます。またこれは交通ルール違反にも該当するため、別途に違反点数6点、前歴がなければ30日の免許停止処分となり、期間中自動車は運転できません。
自賠責保険未加入で公道を走った場合
車検有効期間が過ぎていれば、多くの場合車検で同時に手続きする自賠責保険の期限も切れ、未加入の状態であることが考えられます。
自賠責保険もまた自動車を所有する者の義務であり、未加入での公道の走行は自動車損害賠償保障法第五条違反です。同法第八十六条の三の一号により、1年以下の懲役または50万円以下の罰金が科され、同時に違反点数6点、前歴がなければ30日間の免許停止処分となり、やはり期間中自動車は運転できません。
引用元: e-Gov法令検索 自動車損害賠償保障法
上記2つに該当し公道を走った場合
車検切れと自賠責保険未加入の2つに該当した状態で公道を走ると、2つの法律に違反することになってしまい刑法で定める併合罪が適用され、刑法第四十七条に従ってより重い処分が下されます。
科されるのは1年6か月以下の懲役または80万円以下の罰金、交通違反として違反点数は同じ6点ですが、免許停止処分の期間は大幅に伸びて90日と長期です。前歴があれば免許取り消しになる場合もあります。
引用元: e-Gov法令検索 刑法
車検切れになったときの対処法
車検有効期間が過ぎてしまい法律違反となるためとはいえ、ずっと自動車に乗れないのでは困ります。このような場合の対処法として挙げられるのは、仮ナンバーを取得する方法と、業者に引き取ってもらう方法の2つです。
1つずつ詳しくみてみましょう。
仮ナンバーを取得する
車検有効期間が切れている自動車は、法的に公道を走れない状態にあります。このような状態の自動車を、車検業者の整備工場など必要な場所まで公道を走れるようにするのが仮ナンバーです。
仮ナンバーとは
仮ナンバーは、車検有効期間切れのような公道を走れない自動車に対して、一時的に運航許可を与えるために貸し出されるナンバープレートです。
乗用車に対しては、2種類ある仮ナンバーのうち赤い斜線の入ったものが貸し出されます。通常のナンバープレートは普通車なら陸運局、軽自動車なら軽自動車検査協会が発行しますが、仮ナンバーを発行するのは区分に関係なく市区町村です。
仮ナンバー申請の手順
仮ナンバー発行の申請は、市役所でいう市民課もしくは市民税課で申請しますが、市区町村によって窓口が異なるためまずは総合窓口などで問い合わせるのがオススメです。申請するときは、次の書類を持参します。
- 申請者の運転免許証
- 車検証など仮ナンバーを取り付ける自動車が確認できるもの
- 自賠責保険の原本
自賠責保険が切れていると、仮ナンバーの発行はできません。申請するときは、期限まで1か月以上あることを確認しておきましょう。もし1か月以上ない場合は、あらためて加入した後に手続きします。
また仮ナンバーで許可される経路が、申請した経路のみであることも重要です。申請には窓口で受け取る「自動車臨時運行許可申請書」のすべての必要事項に記入し、有効期間中走行する経路も明記します。
仮ナンバーの有効期間は土日を含めた5日間で、手数料は700円です。延長できないため、申請するときは車検の手配まで完了させた後手続きしましょう。
引き取り納車サービスを利用する
仮ナンバーを申請する時間がない場合は、自動車を引き取って車検を受けさせ、納車までしてもらえる業者を利用する方法があります。この方法なら、所有者には一切の手間がかからず、自動車は運転できる状態で手元に戻るため便利です。
ただ便利な分、相応の費用を支払うことになります。仮ナンバー申請の時間や手間と、業者に依頼して節約できる時間とかかる費用をじっくり比較して選びましょう。
車検有効期間が延長された過去の事例
道路運送車両法によると車検有効期間は「天災その他やむを得ない事由により、継続検査を受けられない」場合、国土交通大臣が伸長を交付できるとされています。実際に過去、次のようなケースで車検有効期間が延長されました。
- 東日本大震災
- 令和2年7月豪雨
- 新型コロナウイルス感染拡大
ここではそれぞれのケースを取り巻く環境と、延長された理由について解説します。
東日本大震災のケース
東日本大震災は平成23年3月11日、東北を中心に発生した死者15,000人以上、行方不明者2,500人以上という戦後最大の自然災害です。地震や原子力発電所の事故によって、東北を中心に多くの人々の生活にさまざまな支障が発生しました。
そのため車検有効期限についても、複数回伸長が交付されています。初回は東北4県に加え関東の1都7県と広い地域が対象でした。しかし最終的に特に被害の大きかった岩手県、宮城県、福島県の一部とそれらの地域が対象とされています。これらの地域で救助、災害復旧、物資輸送などに携わる車両について、平成23年3月11日から6月10日に満了日を迎える車検有効期限が、平成23年6月11日まで延長されました。
新型コロナウイルス感染拡大のケース
令和元年12月に発生したとされている新型コロナウイルスによる感染拡大は、その後世界中に広がりました。物資の輸送が滞り、品不足や収入源による店舗や企業の閉鎖などが相次ぎ、大きな不安の中社会のさまざまなしくみが変わるきっかけとなりました。
車検有効期間の伸長の交付は、令和2年2月のことです。国土交通省により「令和2年2月28日から3月31日までに有効期限が満了する車検の有効期限を4月30日まで伸長する」と公示されました。
その4月に緊急事態宣言が発令されたため、満了日が令和2年5月31日の車両の車検有効期限が6月1日に伸長され、最終的には7月1日にまで伸長されています。
令和2年7月豪雨のケース
令和2年7月に九州を中心に西日本から東北地方までという広い範囲に発生した豪雨でも、車検有効期限は延長されました。このときすでに交付されていた車検有効期間の伸長は期限を迎えつつありましたが、とくに大きな被害があった九州の一部地域では、さらなる伸長が交付されています。
対象地域は当初、熊本県、鹿児島県の一部でしたが、後に被害が拡大した福岡県も追加されました。
これまで紹介したケースからわかるのは、車検有効期間の伸長の対象となる天災のレベルです。対象地域や伸長期間は、被害の状況や変化に応じて追加されることもありますが、逆にいえばこのレベルの天災でしか延長されることはないといえるでしょう。
車検有効期間を忘れずに車検を受けよう
日本では自動車を所有するなら、定められた時期に車検を受けなくてはなりません。しかし仕事や病気、ケガなどによって長期間時間が取れず、車検有効期間が過ぎてしまうことはあり得ます。
有効期間がすぎるとその自動車は公道で乗れません。当然車検を受けるための工場や業者まで行くこともできませんが、乗ってしまうと懲役または罰金が科せられるだけでなく、免許停止や免許取り消しもあり得るため注意が必要です。
有効期間が過ぎた自動車は、仮ナンバーの取得や業者への依頼できちんと対応すればまた公道で乗れるようになります。とはいえ期間内に車検を受けていればこれらの手間や費用はかかりません。
車検は、期間にできるだけ余裕をもって業者に連絡、予約するなど計画的に受けることをオススメします。