車のタイヤは走行距離が長いほど摩耗します。しかしときには通常の摩耗ではなく、走り方や空気圧が原因となって「偏摩耗」と呼ばれる状態に陥ってしまうこともあるでしょう。本記事では偏摩耗について、概要や種類、放置することのリスク、原因、予防方法などを解説します。
タイヤの偏摩耗
タイヤの偏摩耗とは、どのような状態なのかご存じでしょうか?ある程度の距離や期間、走行することでタイヤは自然と摩耗していきます。しかし偏摩耗とは、自然にすり減っていくのとは異なり、運転のクセなどによって文字どおり「偏った摩耗」が生じてしまった状態です。
本章では、そもそもタイヤはどのようなパーツに分かれているのか、偏摩耗とは具体的にどのような状態なのか、タイヤが性能を保てる摩耗はどの程度までなのかを解説します。
タイヤはこのようなパーツに分かれている
通常どおり使用されることで、タイヤは表面がバランスよく摩耗していきます。基本的には均等に摩耗していきますが、偏摩耗の場合は一部分だけが早く摩耗することもあるかもしれません。
タイヤは部分によって、以下のような名称がついています。
トレッド部 | 道路と接する部分 |
ショルダー部 | タイヤの角の部分(トレッド部とサイドウォール部の中間あたり) |
サイドウォール部 | タイヤ側面 |
偏摩耗にもいくつかのパターン(種類)があります。そしてタイヤのどこが、どのように摩耗するのかによって、このパターンは異なります。
偏摩耗とはどのような状態か
「偏摩耗」とは、どのような状態なのでしょうか。一般的な偏摩耗とは、タイヤのトレッド部が道路の状態や運転のクセによって、一部分のみ摩耗している状態のことです。
しかし偏摩耗のなかには、道路との接地面だけでなく、側面だけが摩耗するといったケースもあるでしょう。偏摩耗はどの部分が摩耗しているのかによって原因が異なります。そのため摩耗の状況から、自身の運転のクセが見つかるかもしれません。
それぞれの偏摩耗の原因を把握することで、今後の予防にも活かせるでしょう。
タイヤが性能を保てるラインは?
そもそもタイヤとは、どの程度の摩耗まで耐えられるものなのでしょうか。結論から申し上げると、タイヤが性能を保てるラインとは溝が3〜2mmまで。より安全なラインとしては、7〜8mm程度が残っている状態で交換すると良いでしょう(サマータイヤやオールシーズンタイヤの場合)。
またスタッドレスタイヤの場合は、溝の残り10mm程度が交換のタイミングです。
走行距離の目安としては、5,000kmの走行で1mmすり減るとされています。そのためタイヤを直接チェックせずとも、走行距離からおおよその摩耗度合いを確認できます。
偏摩耗の種類
偏摩耗にはいくつかのパターン(種類)があります。具体的には両肩摩耗やセンター摩耗、外減り・内減り、のこぎり歯摩耗の4つに加えて、さらに4つの「〇〇状摩耗」も挙げられます。
それぞれの偏摩耗は、細かな状態や原因などが異なるため、予防方法も種類によって変わってくるでしょう。以下で詳しく解説するため、参考にしてください。
両肩摩耗
「両肩摩耗」とはタイヤのトレッド部(路面との接地面)において、中心部分よりも両端部分だけ摩耗が進んでしまう状態のことです。原因としては、タイヤの空気圧が不足しているもしくは、過積載などが挙げられます。
空気圧が不足していることで、走行中にタイヤが潰れた状態で走行することになってしまいます。中心部が路面と接しにくくなってしまい、両端部にばかりに負荷がかかってしまうでしょう。過積載の状態の場合でも、同じような状態です。
そのため対策方法としては空気圧を規定値にすることや、過積載を避けるといった方法が挙げられます。
センター摩耗
タイヤのトレッド部の中心部分が、急速に摩耗してしまう状態を「センター摩耗」と呼びます。
原因は空気圧が高すぎることです。両肩摩耗の予防方法として空気圧を規定値にすると解説しました。空気が少ないことで生じやすくなりますが、センター摩耗の場合は空気を入れすぎることで生じてしまうでしょう。
空気を入れすぎてしまうことで、タイヤの中心部のみが膨らんだ状態を引き起こしかねません。すると中心部だけが路面に接することとなるため中心部分のみ摩耗が進んでしまうというわけです。空気圧を規定値にすることで、改善されるでしょう。
外減り・内減り
タイヤのトレッド部の片側だけが摩耗している状態を「外減り(外側摩耗)」もしくは「内減り(内側摩耗)」と呼びます。
一見すると両肩摩耗と似ているように感じますが「外減り・内減り摩耗」の場合は、外側か内側、どちらか片方のみが摩耗します。「外減り・内減り摩耗」が生じる原因としては、タイヤ周りの整備不良もしくは、アライメント不良とされています。
ローダウンをおこなった経験がある、事故などによってタイヤ周りを修理した経験があるといった場合も、アライメントに不具合が生じているかもしれません。整備をしっかりとおこなうことで防げるため「外減り・内減り摩耗」が気になる方は、一度点検してみてください。
のこぎり歯摩耗
「のこぎり歯摩耗」とはヒール&トゥー摩耗とも呼ばれるものです。タイヤの円周方向にかけて、のこぎりの歯のような跡が残っている摩耗のことを指します。
ブロックパターンと呼ばれるタイヤや、乗り心地を重視したタイヤに生じやすい摩耗とされています。
原因はタイヤをローテーションせずに、走行しているためです。空気圧が不足していることも原因のひとつとして挙げられます。その他にはホイールバランスにズレが生じている、アライメント不良を起こしているといったケースも考えられます。
予防策としては何よりもまずタイヤのローテーションをおこなってください。定期的にローテーションをすることで、空気圧も調整しやすくなります。
4つの◯状摩耗
偏摩耗はこれまでの種類以外にも「◯◯状摩耗」と呼ばれるものには、以下の4つがあります。
- 羽状摩耗
- 皿状摩耗
- 波状摩耗
- ピット状摩耗
タイヤの内側もしくは外側に向け、羽根状に摩耗しているものを「羽状摩耗」と呼びます。原因としては、足回りのアライメント不良もしくはトーイン調整不良が考えられます。整備工場などで、修理もしくはアライメント調整をすることで改善または予防が可能です。
タイヤのトレッド部に皿状の局部的な摩耗が生じているものを「皿状摩耗」と呼びます。原因としては以下のケースが考えられるでしょう。
- ベアリング不良
- ホイールバランス不良
- ブレーキ・ドラムの偏心
- 急ハンドルもしくは急ブレーキ操作
基本的にはしっかりと整備をおこない、急ブレーキなどを控えることで改善、予防できます。
波状摩耗は、タイヤのトレッド部に波状の摩耗が生じている状態です。原因としては、ホイールがアンバランスになっていることやベアリングが消耗している、ホイールアライメント不良が挙げられます。整備工場での点検によって解消できます。
最後の「ピット状摩耗」とは、タイヤの全周がくぼんで摩耗している状態。ホイールの損傷やホイールバランス不良が原因とされています。一度、ホイールバランスの調整をすることで、改善されるため試してみてください。
偏摩耗を放置してしまうと?
なかには「偏摩耗をしていても、タイヤ全体が性能を保てなくなるまで摩耗しているわけではないから」といった理由で、そのままにしてしまう方もいらっしゃるかもしれません。しかし偏摩耗を放置してしまうことには、いくつかのリスクが伴います。
代表的なものとして「走行に支障をきたす」「車検をクリアできない」「バーストする可能性もある」といったリスクについて解説します。
走行に支障をきたす
タイヤが偏摩耗した状態のまま走行すると、安全走行に支障をきたします。走行中は振動がタイヤに伝わるため、偏摩耗が生じているとハンドルが取られてしまうかもしれません。
直進の道であっても安定性が低下するため、運転がしにくくなります。さらに走行音も大きくなり、周囲にも迷惑となるため注意しましょう。
車検をクリアできない
偏摩耗を放置してしまうと車検をクリアできません。タイヤは走行性能に直結するため、車検においてもとくに厳しくチェックされるポイントです。そのため偏摩耗を放置した状態では、車検をクリアできません。もちろん車検をクリアしていない車両で公道を走ってしまえば、違法です。
タイヤにおける保安基準としては「すべての溝の深さが1.6mm以上」とされています。一部分でも基準に満たしていなければ、車検は通過できません。
最悪のケースではバースト
偏摩耗を放置してしまうことで、最悪の場合「バーストする」といった可能性も考えられます。タイヤが破裂してしまう現象を「バースト」と呼びますが、走行中にこの状態へ陥ることは、いうまでもなく非常に危険です。
走行していたのが高速道路であれば、大事故につながる可能性もあります。命に関わる事故を招くこともあり得るため、偏摩耗を放置するのはやめてください。
偏摩耗の原因は3つ
先ほど偏摩耗の種類ごとに、原因や対処法を解説しました。しかし素人の場合、どの種類に分類される偏摩耗なのか判断することは、少し難しいかもしれません。そこで本章では、ほとんどの偏摩耗に共通する原因を3つ、解説していきます。
本章で紹介する3つの原因を避けることで、多くの偏摩耗を防げるため、ぜひ参考にしてみてください。
運転のクセ
偏摩耗の原因として、まず考えられるのが「運転のクセ」です。偏摩耗をはじめ、ドライバーのクセはタイヤに現れるとされています。運転の仕方によって、摩耗の仕方は大きく異なります。
とくにカーブでの減速が不十分であることや、停車した状態でハンドルを切るといった操作方法を繰り返すことで偏摩耗が生じてしまうでしょう。また「急」がつく運転方法にも気をつけてください。
空気圧の調整不足
空気圧の調整不足は、偏摩耗の原因としてよく挙げられるものです。偏摩耗の種類を解説した章でも、何度か原因として登場したことからもわかります。
空気圧は、過剰な場合でも不足している場合でも、タイヤにとって大きな負担です。大切なのは「規定値」に沿っていることです。タイヤにまつわるさまざまなトラブルを引き起こすため、空気圧はこまめにチェックしておきましょう。
アライメントがズレている
アライメントとはホイールを取り付ける際の「角度」のこと。ホイールのアライメントが崩れていると、タイヤの片減りを引き起こす原因につながります。アライメントがズレてしまう原因としては、走行中に強い衝撃が加わる、縁石に乗り上げてしまうことで生じやすくなるでしょう。
またスピードが速いほど、衝撃も強くなります。普段からスピードを出しすぎないように注意してください。
バイクのタイヤの場合は?
「自動車のタイヤ」の偏摩耗について解説しました。しかしタイヤは自動車のみに使用するものではありません。バイクのタイヤであっても、運転の仕方やメンテナンス不足によって偏摩耗する可能性があります。
そこで本章では、バイクの偏摩耗とはどのようなものなのか、予防方法はあるのかといった点について解説していきます。
バイクの偏摩耗
バイクのタイヤの場合、波打つような偏摩耗が度々みられます。この原因としては、以下の3つが挙げられます。
- 空気圧が規定値ではない
- 道路の状態
- 乗り方のクセ
基本的には、バイクであっても自動車の偏摩耗と同様の原因と考えられます。タイヤの減り方から運転のクセを自覚できるため、心配な方はこまめにチェックしてみてください。
バイクが偏摩耗しないための予防法
バイクのタイヤを偏摩耗させないためには、何よりもまず「空気圧」を定期的にチェックしましょう。前述した「波打つ偏摩耗」の場合は、空気圧が不足しているかもしれません。タイヤに過度な負担をかけてしまうため、空気圧は常に規定値を守るようにしてください。
最低でも1か月に1回の頻度で、空気圧をチェックしておくと安心でしょう。
偏摩耗を発見したら速やかにタイヤ効果を!
偏摩耗について解説しました。偏摩耗には「両肩摩耗」「センター摩耗」「外減り・内減り」「のこぎり歯摩耗」だけでなく、羽状摩耗や皿状摩耗、波状摩耗、ピット状摩耗といった「◯◯状摩耗」もあります。
それぞれ原因や予防方法が異なるため、自分の偏摩耗がどれに分類されるのかチェックしてみてください。偏摩耗は放置してしまうと、思わぬ大事故につながる恐れがあるため、放置しないように注意してください。