自動車は、廃車するときも所有者自身による手続きが原則です。しかしなかにはそれが難しい、またはできないこともあります。そのようなときは代理人による手続きが可能です。
ここでは自動車の廃車手続きを、代理人が行うとき必要な書類と、申請の手順について解説します。
廃車手続きは代理人にもできる
自動車の廃車の手続きは、所有者本人でなくてもできます。家族や親せき、友人の他、業者やディーラーなど一定の条件さえ満たせば誰でも可能です。中には手数料を払ってもらう「廃車手続き代行」として代行することもあります。
ここでは、代理人が自動車の廃車手続きをすることの概要を解説します。
代理人が廃車手続きするさまざまなケース
所有者本人が手続きできず、代理人がせざるを得なくなる理由はさまざまです。
- 所有者が海外にいる場合
- 所有者がすでに亡くなっている場合
- 所有者の行方がわからない場合
どれもたしかに所有者本人では難しい、もしくはできません。所有者が亡くなっている場合では、その時点で資産である自動車は相続人の共有財産となり、誰かが譲り受けるにしても廃車にするにしても、相続に関する手続きと自動車の名義変更が必要です。
また所有者が行方不明の場合は、たとえ家族でも簡単に廃車にはできません。ただ車検が切れた後5年経つと運輸支局から登録抹消される、つまり廃車となることがあるため、それまで待つという方法もあります。しかしそれまで自動車税を払い続けなくてはなりません。所有者の家族であれば、警察へ失踪届を出し、税事務所へ課税保留の申請をするとよいでしょう。
このように所有者が手続きできないためとはいえ、代理人が必ず手続きできるわけではありません。
手続きには代理人であることの証明書が必要
代理人が廃車手続きをするには、手続きする人が所有者の代理人であることを証明する書類が必要です。書類の名称や手続きに必要なものは、廃車にする自動車が普通自動車か軽自動車かによって異なります。
書類の原本はインターネットのホームページからダウンロードできますが、間違わないよう注意が必要です。またいずれの場合も、消せるボールペンや鉛筆、シャープペンシルではなく黒のボールペンなど消えない筆記具で記入します。
普通自動車の廃車手続きに必要な委任状
普通自動車の廃車手続きに必要な、代理人である証明書類は委任状です。委任状は下記、国土交通省ホームページのリンク先から原本をダウンロードできます。
参照:国土交通省 普通自動車の申請に関する権限の委任状フォーマット
記入する内容は、書類上から順に次のとおりです。
- 受任者:代理人の氏名および住所
- 手続きの名称:廃車手続きの場合、永久抹消登録または一時抹消登録のいずれか
- 自動車登録番号または車台番号:車検証に記載されている車台番号
- 委任者:所有者の氏名と住所、および実印による押印
委任状がなければ代理人による廃車手続きはできません。重要な契約などにも使う実印を押印しなければならないことを考えれば、書類として準備するのはまず委任状からとするのが適切でしょう。記入ミスの訂正にも実印が必要なため、やはり委任状を完成させてから手続きに入る必要があります。
軽自動車の廃車手続きに必要な申請依頼書
軽自動車の廃車手続きに必須の、代理人である証明書類は申請依頼書です。申請依頼書は次のリンク先、軽自動車検査協会のホームページからダウンロードできます。
参照:軽自動車検査協会 その他の手続き 申請依頼書フォーマット
申請依頼書の各項目は、次のように記入します。
- 上部の氏名と住所:代理人の氏名および住所
- 1.~4.の手続き内容:手続きする内容に該当する数字を丸で囲む
- 車両番号・車台番号:車検証に記載されている車両番号および車台番号
- 使用者:廃車にする自動車に登録している使用者の氏名および住所、認印による押印(所有者と同じの場合も記入する)
- 届出者/申請者(所有者):所有者の氏名および住所、認印による押印
申請依頼書には実印こそ使われませんが、記入ミスの訂正印には所有者の認印が必要です。やはり軽自動車の場合も、先に申請依頼書を完成させてから次の手続きに進むことをおすすめします。
代理人が普通自動車の廃車を手続きする場合
自動車を廃車にする作業自体は同じでも、まつわる手続きは名称も必要な書類も、手順も異なります。重要なのはそれぞれで指定された書類がそろっていることと、手順に沿って手続きを進めることです。
ここではまず普通自動車の廃車手続きとして、永久抹消登録と一時抹消登録に必要な書類と、以降の流れを解説します。
永久抹消登録に必要な書類
普通自動車の廃車手続きのうち、永久抹消登録は自動車を廃車にして今後一切使わない場合の手続きです。代理人が行う場合に必要な書類は次のとおりです。
- 所有者の印鑑証明書(発行日から3か月以内のもの)
- 車検証
- 前後合計2枚のナンバープレート
- 「移動報告番号」「解体報告記録日」のメモ
- 自動車税、自動車取得税申告書(運輸支局で入手)
- 永久抹消登録申請書および解体届出書(運輸支局で入手)
- 手数料納付書(運輸支局で入手)
- 委任状(所有者の実印が押印されたもの)
※上記のリストには、次に解説する一時抹消登録と同じものが多く含まれます。リストでは間違いのないよう永久抹消登録にだけ必要なものを太字で強調しました。
一時抹消登録に必要な書類
普通自動車の一時抹消登録とは、自動車のナンバープレートを返納して公道を走れない状態にする手続きです。一時抹消登録を手続きすると、自動車税と自賠責保険料が課されなくなります。ある程度長期にわたって乗らない場合に出費を抑えられる手続きです。
一時抹消登録の手続きを代理人が行うなら、次のような書類を用意する必要があります。
- 所有者の印鑑証明書(発行日から3か月以内のもの)
- 車検証
- 前後合計2枚のナンバープレート
- 「移動報告番号」のメモ
- 自動車税、自動車取得税申告書(運輸支局で入手)
- 一時抹消登録申請書(運輸支局で入手)
- 手数料納付書(運輸支局で入手)
- 委任状(所有者の実印が押印されたもの)
※上記のリストには、永久抹消登録と同じものが多く含まれます。リストでは間違いのないよう一時抹消登録にだけ必要なものを太字で強調しました。
代理人による普通自動車の廃車手続きの流れ
手続きのうち、永久抹消登録の場合は事前に解体業者に依頼して自動車の解体を完了しておく必要がありますが、以降の流れは一時抹消登録の場合も同じです。
手続きは所有者の住所を管轄する陸運支局の窓口で行います。陸運支局の受付は平日のみ、午前は8時45分から11時45分、午後は13時から16時までです。12時台の昼休憩や、16時以降になってしまわないよう時間にはある程度余裕を持っておきましょう。
- 陸運支局の窓口で必要な書類を受け取り、記入して書類を完成
- ナンバープレートを2枚とも返納
- 書類を窓口に提出
申請には、一時抹消登録のみ350円~400円の手数料分の印紙の貼付が必要です。
代理人が軽自動車の廃車を手続きする場合
軽自動車の廃車手続きも普通自動車と同様、2種類あります。
- 解体返納:自動車を永久に公道で走れなくする手続きで、普通自動車の永久抹消登録にあたる
- 自動車検査証返納届:一時的に自動車を公道で走れなくする手続きで、普通自動車の一時抹消登録にあたる
どちらも自動車を普通自動車の廃車と同じように扱う手続きですが、手続きの名称が違うことに加え、必要な書類なども少しずつ異なるため注意が必要です。
解体返納に必要な書類
軽自動車を、代理でいわゆる廃車を手続きする場合、必要なのは委任状ではなく申請依頼書です。委任状とは名称こそ異なるものの、内容はどの車両のどのような手続きを、誰に委託するか、と委任状と同じような内容を記載します。
解体返納には申請依頼書の他、次のような書類が必要です。
- 車検証:原本のみ(コピー不可)
- ナンバープレート2枚:紛失などで返納できない場合は別途「車両番号標未処分利用所」の提出が必要
- リサイクル券に記載された「移動報告番号」と「解体報告記録日」のメモ
- 軽自動車税申告書
- 解体届出書:窓口でも入手できるが、ホームページからダウンロードも可能
- (事業用軽自動車のみ)事業用自動車等連絡書
- 申請依頼書
この書類は、タイトルにあるとおり解体届出書であると同時に重量税還付申請書でもあります。これは手続きする時点で車検有効期間が1か月以上残っていれば、自動車重量税の還付を受けられるためです。
還付を受け取るために、書類の中段あたりにある欄に振込先口座を記入します。
※上記のリストには、自動車検査証返納届と同じものが多く含まれます。リストでは間違いのないよう解体返納にだけ必要なものを太字で強調しました。
自動車検査証返納届に必要な書類
一方、自動車検査証返納届の手続きには、次のような書類が必要です。
- 車検証:原本のみ(コピー不可)
- ナンバープレート2枚:紛失などで返納できない場合は別途「車両番号標未処分利用所」の提出が必要
- 軽自動車税申告書
- 自動車検査証返納証明書交付申請書・自動車検査証返納届出書:窓口でも入手できるが、ホームページからダウンロードも可能
- (事業用軽自動車のみ)事業用自動車等連絡書
- 申請依頼書
手続きの際、代理人の印鑑が必要になる場合があります。万が一に備えて、持参しておきましょう。
なお、この手続きの後そのまま廃車にする場合は、解体届出の手続きをします。解体届出は、あらかじめ解体業者に依頼して解体を完了させた後の手続きです。このとき、提出する書類としては解体返納と同じ軽第4様式の3(解体届出書)を使います。
※上記のリストには、解体返納と同じものが多く含まれます。リストでは間違いのないよう自動車検査証返納届にだけ必要なものを太字で強調しました。
代理人による軽自動車の廃車手続きの流れ
軽自動車の廃車手続きも、解体返納の場合はあらかじめ自動車を業者に依頼し、解体を済ませておく必要があります。それ以外の手順は、自動車検査証返納届も変わりません。
手続きは、所有者の住所を管轄する軽自動車検査協会で行います。陸運支局と同様受け付けているのは平日のみで、時間は午前が8時45分から11時45分まで、午後は13時から16時までです。時間に間に合うよう、ある程度の余裕を持っておきましょう。
手順はおよそ次のとおりです。
- 軽自動車検査協会の窓口で必要な書類を入手し、記入
- ナンバープレートを2枚とも返却
- 記入した書類を提出
このとき自動車検査証返納届の手続きのみ、350円の手数料がかかります。解体返納および解体届出には必要ありません。
廃車手続きの注意点
自動車の廃車手続きを代理人が行う手順はここまで解説してきたとおりですが、注意すべき点は他にもあります。実際に手続きするとなると、細かなところが気になるものです。ここではこのようなちょっとした気になることについて解説します。
代理人が血縁者でなくても手続きできる
廃車手続きを代理人が行うケースでは、家族間、親族間であることも多いでしょう。しかし廃車に関していえば、手続きする代理人は血縁者に限らず、誰でも構いません。大切なのは所有者が委任したこと、委任された申請者が手続きすることであって、それは委任状もしくは申請依頼書が証明してくれるためです。
とはいうものの、実際問題として誰でも任せられるとも限りません。廃車の手続きは自動車の処遇を定める大切なものです。とくに普通自動車の場合は、手続きに必要として印鑑証明書を預けなくてはなりません。代理人には、相応に信頼できる人物が適しているといえます。おのずと血縁者や家族に絞られてくるのは仕方ないかもしれません。
必要なものを間違いなくそろえておく
廃車の手続きをスムーズに完了させたければ、委任状または申請依頼書を含め手続きに必要な書類などを間違いなくそろえておくことは必須です。書類はすべて、ボールペンなど一度書いたら消えない筆記具で記入します。
事前にそろえた書類のうち、1つでも書き間違いがあれば訂正印も必要です。訂正印はすべて委任者である所有者の印鑑を使います。つまりその時点で手続きは進められず、あらためて出直すしかありません。
このような困ったことにならないよう、必要なものは何度も確認し、間違いなくそろえておく必要があります。
業者に依頼する場合は譲渡証明書が必要な場合も
代理人として自動車ディーラーや廃車買取業者、行政書士などを利用する場合は、必要書類も指定してくれるため安心かつ簡単です。この場合も委任状や申請依頼書が必要ですが、その他に譲渡証明書が必要になる場合があります。
譲渡証明書とは、自動車の所有者が変わったときに提出する書類です。廃車買取業者は持ち込まれた自動車を査定し、廃車にするかメンテナンスして販売するかを判断します。このとき廃車にするときは永久抹消登録または解体返納を手続きしますが、後に販売する場合の手続きは一時抹消登録または自動車検査証返納届です。譲渡証明書で所有者を業者に変えておくことで、業者の手続きはごく簡単になるため譲渡証明書が求められます。
どちらになるかの判断は業者次第です。いずれにせよ書類は業者が指定してくれるため、その通りにそろえれば問題ありません。
代理の廃車手続きに必要な書類は確実にそろえよう
ここまで、代理人による普通自動車、軽自動車の廃車手続きについて解説してきました。廃車手続きには、以降二度と乗れないようにする手続きと一時的に乗れなくする手続きの2種類があり、それぞれ必要な書類や手続きの方法や窓口が異なります。
とくに代理人による手続きは、委任状もしくは申請依頼書によって所有者からの委任の事実を証明しなくてはなりません。スムーズに手続きするなら、必要な書類は記載内容を含め間違いなくそろえる必要があります。
廃車手続きに必要な書類は決して少なくありません。どうすればいいかわからないときは、それぞれの窓口に確認し、正確にそろえるよう努めましょう。