公園や道路脇、路地裏だけでなく建物の敷地内や駐車場、空き地にまで自動車が放置されている場合もあります。ただ駐車しているだけかもしれませんが、周囲の交通や生活の安全を脅かすようならなおさら、早くの撤去が求められます。
しかし放置車両にも所有者はいるはずです。自動車が所有者にとっての資産であることを考えれば、放置されている土地の所有者といえども、放置車両は勝手に撤去することはできません。法律に則った手続きを踏む必要があります。でなければ逆に損害賠償を求められる場合もあるためです。
そこでここでは、所有する土地や建物にある放置車両を撤去する手順と、関連するさまざまなケースへの対応の手順、また自分の自動車が放置車両とされてしまった場合の対処法を詳しく解説します。
放置車両は所有者以外が勝手に撤去してはいけない
もしある人の所有している土地に、勝手に誰かが自動車を駐車すれば、その間は土地を活用することも、それによって収入を得ることもできなくなります。放置車両の存在はそれだけで、土地所有者に対する大変な迷惑行為です。
しかし放置車両を自動車の所有者以外の人が自分で撤去できません。なぜこのような事態になっているのか、その事情を詳しくみてみましょう。
放置車両の自力救済は原則的に禁止されている
撤去できない理由は、自動車にも土地と同じように資産としての価値が認められていることです。放置車両であっても資産の一種である「自動車」として残っている以上、周囲がどれほど迷惑し被害を受けていても、他の人が侵せばそれはれっきとした法律違反です。もし勝手に廃車にされたことを、所有者が「同意はなかった」と不服を申し立てれば、損害賠償が請求されかねません。
なかには、損害賠償を狙って意図的に自動車を放置するケースもあるようです。いくらボロボロで、すでに自動車として使えないと明らかでも、やはり勝手な処分は避けるべきでしょう。処分するのであれば「処分が勝手にではない」こと、「やむを得ず処分した」ことの両方を、客観的に証明する必要があります。
公共の土地に放置車両がある場合
放置車両は、私有の土地や不動産だけにあるわけではありません。たとえば市役所や町役場といった地方自治体、都道府県、国などが所有する公共の土地や不動産にも十分あり得ます。
このような公共の土地や不動産に自動車が放置される場合に備え、都道府県には取り扱いを定める条例が設けられていることが多いようです。条例が適用されれば、都道府県知事から所有者に移動勧告等が発せられたり、ときには条例に則って放置車両を移動したり保管したりできます。
放置車両を撤去する方法と手順
土地所有者の権利が侵害されているともいえる放置車両でも、一定の手続きを踏まなければなりません。所有者がわかっていれば車両の所有者に対して移動してもらえるよう連絡する、わからなければ調べる必要もあるでしょう。
ここでは放置車両を撤去するために必要な手順と方法を解説します。
1.車両の場所や状態などを記録する
まずは放置車両とその周辺について細かく記録することから始めましょう。記録しておきたい項目は、およそ次のとおりです。
- 放置車両のナンバープレート:自動車の所有者を特定できる可能性がある
- 自動車の状態がわかる写真:全体や部分を、暗い部分はライトを当ててできるだけ内部がわかるように撮影
- 放置されている場所の地図や見取り図:土地の境界線や道路からの距離などを、できるだけ詳しく正確に記録する
- 記録した日付:後で見たとき、どのくらい放置されているかがわかる
こちらがどれほど迷惑を被っているかを証明するには、ただ「困った」だけではなく客観的な証拠が必要です。どのような場所にどのような状態の自動車が、どれくらい放置されていたかを示す記録は、その証明に役立ちます。
2.運輸支局や軽自動車検査協会に開示請求する
次は放置車両を移動できる権限のある所有者探しです。警察に相談しても放置車両は、犯罪などに関係がない限り探してくれません。可能な方法の範囲で探す必要があります。自動車の登録に関する記録が保管されているのは、普通自動車なら運輸支局、軽自動車なら軽自動車検査協会です。
普通自動車の場合
普通自動車の所有者は、運輸支局で取得できる「登録事項等証明書」からわかります。登録事項等証明書は、自動車の所有者の氏名や住所が記載されている正式な書類です。ただし公的な証明書のため、取得には次のようなものを用意しなくてはなりません。
- 開示請求する人の身分証明書
- ナンバープレートの番号等
- 車台番号(エンジンルームまたはセンターピラーのコーションプレートに記載)
- 手数料
もし放置車両が施錠されていたら、車台番号がわからないかもしれません。しかし放置の現状や期間、画像等の客観的証拠により、知り得る情報だけで開示請求できる場合もあるため、困ったときは運輸支局に相談してみましょう。
軽自動車の場合
軽自動車の所有者を確認したい場合は、軽自動車検査協会で「検査記録事項等証明書」を取得します。検査記録事項等証明書は、軽自動車の所有者の氏名や住所が記載されている公的な書類を指します。取得には先に作成した放置車両の写真やナンバープレート、放置場所の見取り図や地図などの記録と、開示請求するこちらの身分証明書が必要です。
3.警察に連絡する・相談しておく
自動車の放置は犯罪ではなく、刑事ではなく民事に分類されるため、放置の事実が明らかであっても「民事不介入の原則」から警察が撤去することはありません。とはいえ放置車両は、イタズラや放火のターゲットになりやすく、自動車自体が盗難車である、また犯罪に関係している可能性もあるため、相談内容はしっかり記録されます。
4.放置車両の所有者に連絡する
運輸支局や軽自動車検査協会で手に入れた証明書類には、たしかに所有者の氏名や住所は掲載されていますが、これはあくまで「最後に車検を受けた当時の記録内容」です。現在でもそこに住んでいるかは不明な上、連絡先電話番号などは掲載されていません。
そうなると郵送による「書面での通知」しかありませんが、このとき普通郵便で送ってしまうと到着したのかどうかがを確認できず、訴訟になった場合「郵送した」という事実を証明できない可能性があります。そのため郵送するときは、第三者による送付先および内容を証明してもらえるよう、日本郵便のサービス「電子内容証明」を利用しましょう。
もし所有者欄が自動車ディーラー名やクレジット会社名なら、連絡すれば所有者の責任で速やかに撤去してもらえる可能性もあります。
5.訴訟を起こし放置車両の所有権を自分に移す
電子内容証明で所有者に連絡してもこちらの要請に応じないこともあり得ます。以降も変わらず車両を放置し続ければ、今度は裁判所で訴訟を起こす段階です。ここでいう訴訟は、「少額訴訟」をいいます。少額訴訟は1回の期日で審理を終えて判決を下すことが原則の、60万円以下の金銭の支払いを求める場合にのみ利用できる特別な訴訟手続きです。
判決が下った後、強制執行の申し立てをすると、公的な権力によって権利の移行や車両の撤去ができるようになります。もし執行官が放置車両に価値がないと判断した場合は、指示に従って廃棄処分が可能です。一方価値があると判断した場合は強制競売にかけられ、自分で落札できれば所有権を得て、自由な撤去や処分ができます。
6.車の廃車処分を行う
正規の手続きによって放置車両の所有権が得られれば、放置車両を廃車にするのも売却するのも自由です。しかし車検が切れていれば、自動車が動かせる状態であっても自分で公道を運転して移動させることはできません。そのような場合は、最寄りのディーラーや自動車整備工場、廃車買取業者などに依頼するとよいでしょう。
放置車両に価値がある場合は、廃車買取業者を利用すると買い取ってもらえるため、廃車手続きにかかる費用を抑えられるだけでなく、幾分かの買取金額を受け取れる可能性があります。
放置車両の所有者と連絡が取れない時の対処法
さまざまな方法を使っても、所有者と思うような連絡が取れない場合もあるでしょう。その場合は法律の力を借りて撤去することは可能です。そのためには、ただ「連絡が取れない」と主張するだけではなく、あらゆる方法を使ってもダメだったと証明しなくてはなりません。
そこでここでは、所有者と連絡が取れないとき放置車両の撤去の正当性を証明するための対処法を解説します。
1.放置車両に貼り紙をする
たとえばナンバープレートが外され、車台番号も読み取れないよう削り取られていると、自動車の登録情報の開示請求ができず、所有者の特定はかなり難しくなるでしょう。
そのときは放置車両の窓ガラスなどに、期限としての日付がある紙を2週間〜3か月程度貼り続け、所有者に対して撤去警告を通知するという方法があります。たとえば「◯月◯日までに撤去しなければ放置車両とみなし処分します」といった具合です。
放置されていると考えれば、所有者が貼り紙を見ることはないかもしれません。しかし定期的に状態を確認しているなら、そのとき見つける可能性はあります。可能性がゼロでない以上「あらゆる方法」の1つとしてやるべき方法といえるでしょう。
ただ紙を貼るときは、ガラスやボディに傷や跡が残らないような配慮は必要です。はがしやすいテープを使うなど、損害賠償に問われることのないような方法を採用しましょう。
またこれら一連の方法は、経過を写真やデータで保管する、第三者である証人に確認してもらうと、万が一訴訟を起こされたとき役立ちます。
2.対応が見られない場合は裁判所に頼る
放置車両への貼り紙でも撤去されない、または所有者と連絡が取れない、連絡を取れても撤去してもらえない場合は、最終的に法律に訴え正規に手続きを踏むため裁判所を頼りましょう。
簡易裁判所へ訴える方法には、大きく分けて次の2種類があります。
- 放置車両の所有権の移転
- 放置車両を撤去する強制執行
もし放置車両に価値があれば、所有権をこちらに移せば売却も廃車もできます。ただそのためには競売で落札しなくてはならず、別途手続きが必要です。たとえ売却代金が手に入るとしても、かかる手間も加味した判断が必要でしょう。
強制執行では放置車両を撤去し、土地を開け渡して廃棄するよう裁判所が指示を出します。しかし、実際に撤去されるまで時間がかかる傾向にあり、裁判費用や弁護士費用がかかるため一定の備えが必要です。
どちらにするかの判断は、放置車両に価値があるかどうかによって決まるため、正確に判断したい場合は専門家に相談するとよいでしょう。
放置車両の撤去に追加で費用負担があるケースと費用の目安
放置車両を撤去するだけであれば、費用も比較的安くて済みますが、状況によっては費用がさらに追加されるケースもあります。より確実に、スムーズに撤去を完了するには、放置車両の状況を費用の面からも把握しておくことが大切です。
ここでは放置車両の撤去に追加で費用が発生してしまうケースと、かかる費用の目安を解説します。
撤去するために追加で費用負担があるケース
放置車両が次のような状態にあるケースでは、費用が追加され最終的には高額になる可能性があります。
- 車内に大量のゴミがある:ゴミの処分費用
- テレビや冷蔵庫といった特定家庭用機器がある:法律に基づいた手続きや処分の費用
- 自動車のリサイクル料金が未納:リサイクル料金の支払(未納のままでは廃車手続きも不可)
- タイヤの空気が入っていないなど足回りが動かない:レッカーで費用が高額にのぼる可能性あり
これらは、ここまでにかかった裁判や弁護士にかかるものとは別の費用です。放置車両に対処するときは、最終的な撤去にかかる費用まで含めた予算を確保する必要があります。
撤去するために必要になる費用
放置車両の撤去を、廃車にするために買いたい業者へ依頼するとき発生する費用は、およそ次の通りです。
レッカー費用 | 10,000〜30,000円前後 |
解体費用 | 10,000〜20,000円前後 |
リサイクル料金 | 5,000〜20,000円前後 |
合計 | 20,000〜70,000円前後 |
これらの費用はあくまで相場であって、置かれた状況によっては大きく変わることもあります。車内にゴミがある場合は処分に別途費用が発生する一方、逆にリサイクル料金に未納がなければ費用は発生しません。
またレッカー費用も、解体業者によっては無料の場合もあるようです。ただ、解体した後は正式に廃車手続きを踏む必要もあるため、手続き費用は少額ですが運輸支局や軽自動車検査協会までの交通費や、仕事を休むことによる収入減までを加味する必要はあるでしょう。
費用のかからない放置車両の撤去・廃車の方法は?
放置車両を撤去し、廃車にするにはたしかに費用がかかります。これは放置車両の車検が切れ、鍵がなかったりエンジンが動かなかったりして実際の移動が難しいためといえるでしょう。
しかしまさにこのような状態の自動車の撤去を得意とするのが、廃車買取専門業者です。なかでも放置車両を含む、いわゆる「動かない自動車」の引き取りに強い業者であれば、自動車を釣り上げて移動するユニック車を使うなど、撤去の一連の作業すべてを請け負ってくれることもあります。
さらに解体処理施設を持っていれば、解体後の鉄などの素材をパーツごとに売却することも可能です。売却金額によっては撤去や解体、廃車手続きの費用を差し引いてもお釣りが来るため、費用がかからないばかりかお金が受け取れる可能性もあります。
自分の車に放置車両確認標章が貼られたときの対処法
放置車両は原則として、所有者の意思確認なしに移動されることはありません。しかしもし放置車両が、本来駐車が禁止されている場所や、放置されることで危険を伴ったり交通の妨げになったりする場所にある場合は、レッカー移動される場合があります。
このとき放置車両のフロントガラスなどに貼られるステッカーが「放置車両確認標章」です。ここでは放置車両確認標章の概要と、貼られたときの対処、そして違反の点数と反則金を解説します。
放置車両確認標章とは?
駐車違反の状態にある自動車のフロントガラスなどに、放置車両確認標章というステッカーが貼り付けられます。貼り付けられる権限を持っているのは警察官だけとは限りません。たとえば東京都には、正式に選任され巡回している「駐車監視員」にも権限があります。その後警察に報告するしくみですが、放置車両確認標章を貼り付けることは可能です。
貼り付けられるとそれだけで、駐車禁止違反になってしまいます。
放置車両確認標章が貼り付けられたときの対処の流れ
放置車両確認標章が貼り付けられた自動車の運転者または所有者は、警察署に出頭し運転者は反則金を納めます。ただ運転者と所有者が別で、運転者の責任を追及できない場合は所有者が、反則金と同額の放置違反金が科せられます。
放置駐車の違反点数・反則金
放置駐車の違反点数や反則金は、放置した場所が駐停車禁止なのか駐車禁止なのかによって変わります。
駐停車禁止場所 | 駐車禁止場所 | |
違反点数 | 3点 | 2点 |
反則金(大型車) | 25,000円 | 21,000円 |
反則金(普通車・軽自動車) | 18,000円 | 15,000円 |
参考:警視庁「反則行為の種別及び反則金一覧表(放置・駐停車に関する反則行為)」
放置車両を適切に撤去しよう
放置車両はただそこにあるだけで土地の所有者の権利を侵し、周辺住民等に対しては生活を不安にさせたり安全を脅かしたりする可能性があります。しかし放置車両も自動車である以上、所有者の資産であるため、たとえ土地の所有者であっても勝手に撤去することはできません。
原則として放置の状態を記録したり、所有者を調べて撤去を求めたりといった手順を踏む必要があります。それでも撤去されない場合は、裁判所に訴えれば撤去や売却は可能です。
ただこれらの手順には裁判や弁護士にかかる費用だけでなく、実際に撤去するときのレッカー費用や解体費用などの費用がかかります。もし撤去費用がかけられない場合は、放置車両の撤去を得意とする廃車買取業者に依頼するのがオススメです。自動車の状態によっては費用がかからないばかりか、一部が手元に残る場合もあります。
放置車両はさまざまなリスクがあるため、できる限り早い撤去が必要です。かかる費用や手順を踏まえ、資金や時間など計画的に備える必要があるでしょう。